作業環境測定

作業環境測定の実施は、労働安全衛生法(安衛法)第65条を根拠としており、具体的な実施項目は安衛令により定められています。大学などでは、安衛特別5則と呼ばれる有害物質に係る規則、その中でも、特定化学物質障害予防規則(特化則)・有機溶剤中毒予防規則(有機則)・粉じん障害防止規則(粉じん則)の3つの規則が重要です。

作業環境測定とはなにか

有機溶剤のような有害性の化学物質を使用する作業や、騒音のような有害要因の下で作業を長く続けると、人体に有害な影響及び重大な健康障害が現れます。このような健康障害を防ぐために「作業場(実験室など)における、有害物質の濃度や騒音などの有害要因の大きさを定期的に測定して、作業環境中にこれらの有害な因子がどの程度存在し、その作業環境で作業する人達がこれらの有害な因子にどの程度さらされているのかを把握すること」を、「作業環境測定」と言います。どのような有害要因に対し、どの程度の頻度で実施しなければならないのかは、法律により定められています。また、作業環境測定の結果に基づいて作業環境を評価して十分に安全であることを確認します。良好ではない結果となった場合、測定結果の評価に基づいて必要な改善措置等を講じなければなりません。

作業環境測定が必要な化学物質・有害要因

作業環境測定を行い、定期的に作業場の環境を管理しなければならない化学物質や有害要因は、法令(安全衛生法施行令)により定められています。取扱いが特別な放射線業務を除けば、大学などの研究教育機関で測定対象となるのは、粉じん、特定化学物質、有機溶剤の3種類であることが多いです。いずれの場合にも6か月以内に1回の測定が必要です。

  • 粉じん:「土石、岩石、鉱物、金属または炭素の粉じんを著しく発散する屋内作業場」では、粉じんの空気中濃度の測定が必要です。具体例としては、鉱さい、活性白土、セメント、石膏、鋳物砂、研磨剤の使用により多量の微粉末が飛散する作業です。
  • 特定化学物質:第1類から第3類までの3種類に分類されており、このうち、作業環境測定は、特定化学物質の第2類・第3類に対して、実施しなければなりません。その代表例として、クロロホルム・ジクロロメタン・ベンゼン・水銀・フッ化水素・ホルムアルデヒド・マンガン・クロム・エチレンオキシド等があります。例えば、ホルマリンはホルムアルデヒドの水溶液であるので、測定対象に含まれます。
  • 有機溶剤:第1種から第3種までの3種類に分類されます。このうち、作業環境測定は、有機溶剤の第1種・第2種に対して、実施しなければなりません。その代表例は、アセトン・イソプロピルアルコール・エチルエーテル・キシレン・酢酸エチル・トルエン・メタノール・テトラヒドロフラン等です。エタノールを除くほぼ全ての揮発性のある汎用有機溶剤には、作業環境測定の実施が必要です。

作業環境の評価「管理区分」

A測定とB測定により得られた結果は、「管理濃度」と呼ばれる指標と比較して、環境状態の評価を行い、3 段階の「管理区分」と呼ばれる段階に分類されます。「第1管理区分」は良い状態を、「第2管理区分」は少し悪い環境状態を、「第3管理区分」はかなり悪い環境を示します。基本的には、改善措置により第2管理区分より良い評価になるか、十分な改善措置が行われたと認められない限り、そこでの作業は行わないようにします。

*A測定:実験室内を6メートル以内の等間隔に区切り、5点以上、かつ、各点で10分間以上測定する。

*B測定:環境空気中濃度が最大と考えられる場所で10分間測定する。

管理区分の示す状態と必要な改善措置
管理区分 作業場の状態 講ずべき措置
第1管理区分 当該単位作業場所のほとんど(95%以上)の場所で気中有害物質の濃度が管理濃度を超えない状態 現在の管理の継続的維持に努める。
第2管理区分 当該単位作業場所の気中有害物質の濃度の平均が管理濃度を超えない状態 施設、設備、作業工程または作業方法の点検を行い、その結果に基づき、作業環境改善に必要な措置を講じる。
第3管理区分 当該単位作業場所の気中有害物質の濃度の平均が管理濃度を超える状態 ①施設、設備、作業工程または作業方法の点検を行い、その結果に基づき、作業環境改善に必要な措置を講じる。 ②改善措置の効果を確認するための測定及び評価を実施する。 ③作業者に有効な呼吸用保護具を使用させる。 ④健康診断の実施等作業者の健康保持を図るための必要な措置を講じる。

*管理濃度の低いクロロホルムやホルムアルデヒド(ホルマリン)を使用する場合は、少量で管理濃度に達し、第2、第3管理区分となる場合があります。これらの有機溶剤を使用し、カラム処理や合成反応を行う場合は、必ずドラフト内で行うことや、廃液のふたは未使用時に必ず閉めておくなど、大気中への漏洩、飛散に注意してください。